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MAIN BACK 香炉峰下新卜山居 草堂初成偶題東壁 白 居易


  香炉峰下 新たに山居を卜し
  草堂初めて成り 偶たまたま東壁に題す
            白居易


 日高く睡り足れるも猶お起くるに慵く
 小閣に衾を重ねて寒さを怕れず
 遺愛寺の鐘は枕を欹そばだてて聴き
 香炉峰の雪は簾を撥かかげて看る
 匡廬きようろは便ち是れ名を逃るるの地
 司馬は仍お老いを送るの官為り
 心泰く身寧やすらかなるは是れ帰する処
 故郷何ぞ独り長安にのみ在らんや



白居易草堂(江西省・廬山)
(漢詩への誘い・季節を詠む)
日が昇ってもまだねむい
ふとん重ねてあたたかい
お寺の鐘は枕にて
お山の雪はすだれ越し
世間はなれてのんびりと
年寄り仕事はほどほどに
もうこの上の欲はない
都へ帰る気もせんよ

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030   ←前の詩次の詩→


  日は高くのぼり、眠りは足りたが、起きるのはまだ大儀である。
  小さな二階屋でふとんを重ねて寝ていれば、寒さの心配はない。
  新築の草堂、山に雪の降る季節にも、惰眠をむさぼるのにもってこいである。
  起き出すのもものういままに、遺愛寺から響いてくる鐘の音は、
  頭をつけたままの枕を立てて耳を傾け、
  香炉峰につもった雪景色は、寝間から手をのばし簾をはねあげて眺める。
  ここ廬山こそは、名声,名誉、それをあげつらう世間の毀誉褒貶から、
  逃避する場所である。
  かつて陶淵明も、この山のふもとで暮らしたというではないか。
  そのうえ、司馬という官、江州長官の補佐というつまらぬ役も、
  老後を送るのにはふさわしい。
  心は安泰、身は安寧、それこそ人間の落ちつくべく、行きつくべき所。
  何も長安だけが故郷ではない。

 白居易四十六才、江州(江西省)の司馬に左遷されていたときの作。香炉峰は、名山として知られる廬山、そのふもとに陶淵明が居をかまえていたことでも有名な廬山の、峰の一つである。
 この居直りの詩は、白居易自身の分類によれば「閑適」の詩である。そして世間でこの種の詩だけがもてはやされることを、白居易はきらっていた。「今、僕の詩、人の愛する所の者は、悉く雑律詩と長恨歌以下に過ぎざるのみ。時の重んずる所は、僕の軽んずる所なり」というのは、友人元?に与えた手紙の一節である。「新楽符」を中心とする政治詩、社会詩をもっと評価してほしいというのであろう。
 だが白居易在世中の唐代でそうであったように、わが王朝時代の宮廷でも、もてはやされたのは、このたぐいの詩であった。

 『枕草子』の有名な一節に、
 雪のいと高う降りたるを、例ならず御格子まゐりて、炭櫃に火おこして、物語りなどして集りさぶらふに「少納言よ、香炉峰の雪いかならん」と仰せらるれば、御格子あげさせて、御簾を高くあげたれば、わらはせ給ふ。

                         (一海知義「漢詩一日一首」)